冬休みが明けて十日ほど経った日、評議会の緊急招集がかかった。シャルルとヴィンスは休日の早朝にも関わらず寮長のクロエに叩き起こされ、大急ぎに身支度をして大広間へ来た。同じように早朝に起こされた評議員たちは皆眠そうな顔をしており、中には立ったまま寝ようとしている者もいた。シャルルは外の寒さに目が覚めてしまい、屋内にいてもなおマフラーに顔を埋めている。ヴィンスはいつも通りのきりっとした表情で隣にいた。
「おはよー、シャルル、ヴィンス……」
寝癖を治す暇がなかったのか、元々の癖毛がさらにひどくなった状態のウィルが二人にあくびをしつつ声をかけた。
「おはよう。ボタン掛け違えてるよ」
シャルルはウィルのジャケットを指差していう。ウィルは目を瞬かせてから、一寸遅れてボタンに手を触れる。
「ほんとだ〜……ありがと、眠すぎる……」
「どうしてこんな早くに呼び出したんだろうな」
ヴィンスの問いに答えるかのように、大広間を急ぎ足に入ってくる寮長たち。集められた評議員の間にピリッとした空気が走る。これは明らかにただ事ではないと、三寮長の表情からわかったからだ。
「みんな起きてるかい?」
ノーランドの声が大広間の冷たい空気を揺らす。シャルルは思わず自分のジャケットの袖を掴んだ。重苦しさに重大な内容ということは感じ取ったが、なぜこの場に先生は一人も来ていないのだろうと不思議に思ったが、シャルルの疑問とは反対に教職員不在のまま話が進む。
「単刀直入に今日の連絡事項を伝える」
サマセットがそう言って、他の生徒たちが万が一にも入ってこられないようにクロエは大きな扉を閉めた。クロエはそのまま扉のそばに立って、ノーランドとサマセットに視線で合図をした。
「数時間前に、生徒数人が自死を図った」
ノーランドが重く言葉を落とした。
「幸い、全員は気を失っただけで今は先生たちに保護されているけれど、問題はその全員が出所がわからない同一の薬を服用していたことだ」
大広間にざわめきが走る。「なぜ自殺未遂を」や「虚国から流れてきた違法な薬ではないのか」など、皆が口々につぶやく。リチャードがシャルルたちへと向くが、監督生たちがいる手前、冷ややかな目線を送るだけにとどまる。サマセットが手を挙げて、静かにするように伝えるとノーランドが続けた。
「君たちもわかっていると思うが、評議員としてすべきことは明確だ。生徒たちが不審な取引をしていないかよく目を光らせること。そして、もうこれ以上、事件や被害者を生み出さないように努めることだ」
シャルルはヴィンスとウィルを横目に見る。二人とも、ノーランドの言葉に力強く頷いた。他の生徒たちも事件の重さに動揺しているようだが、皆同じように真剣な面差しだった。
学園中に噂が流れるのは光ほどに速い。生徒同士の不審な取引はないかと目を光らせている評議員を揶揄う生徒がいないはずもなく、ただのお菓子を危険物を運ぶかのように渡したり、子供のおもちゃのような魔法道具をどこからか仕入れてきて教室内に仕掛けたりだの、シャルルたちはそれらを注意したり回収したりするために奔走していた。
シャルルとヴィンスが授業終わりにウィルと合流して昼食を食べるために、東塔から東南塔へ向かう三階の廊下を歩いていると、上級生らしきすらりとした背の高い生徒が周囲を見回しながら、それにロイが引っ張られるように階段のほうへと連れられていくのを見た。
「今の、ロイじゃない?」
気がついてそういったシャルルに、別の方向を見ていたヴィンスが振り向く。
「どこ?」
「あっちの階段に行った。他の生徒と一緒にいたんだけど……」
「なにかしていたのか? 気になるところでも?」
「ううん、ただ、二人とも険しい顔をしてて」
「……一応確認しにいこう。ロイが誰かといるのは珍しいし、何かあるかもしれない」
ヴィンスの言葉にシャルルは頷く。最近の事件の多さと天体の不思議な現象。少なからずロイが絡んでいるかもしれないと、シャルルたちは疑っていた。東南塔の階段へと二人は早足に向かったが、先ほど同じ方向へと向かっていったはずの二人はどの階にも見当たらず、結局そのままウィルと待ち合わせしているカフェテリアへと向かった。
「急に消えたってこと? 転移装置でも使ったのかな」
昼食を食べながらシャルルとヴィンスが一部始終を話すと、デザートのクッキーを食べながらウィルは首を傾げる。
「それって先生しか使えないんじゃなかったっけ」
シャルルはディキンズ先生が度々教室に転移装置で移動してくるのを思い出しつつ答える。パンを口に放り込んだところのヴィンスが頷いて答えるので、ウィルとシャルルは首をひねる。
「じゃあ、どこかの教室にでも入ったのかな?」
ウィルが思い出したように手を叩く。
「そういえば! シャルルって地下道の噂知ってる?」
「え? 初めて聞いたかも……」
クッキーくずがテーブルに落ちていたのをウィルは紙ナプキンで集めながら「学園の七不思議の一つなんだけどさ」と言って話を続ける。
「学園の中庭のとこに謎のオブジェがいくつかあるじゃん? あれのちょうど下くらいに地下の講堂あるって噂で、どの塔から伸びてるか、どこから繋がっているのかわからないけど、その地下の講堂に繋がってる地下道があるらしいんだ。本当にそれを見たことがある生徒は一人もいないけどね」
「小説でよくありそうな話だな」
ヴィンスも知らなかったらしく、興味深そうにウィルが話しているのを聞いていた。
「俺も噂でしか聞いたことないけどね。結構そういう話って学園中に転がってるよ」
確かに有る事無い事噂を流すのが好きな生徒がたくさんいて、今まさに自分たち評議員は困らせられているな、とシャルルは内心思って頷いていた。
