寝覚めの一杯

なれない場所だと眠りも浅いのかと思ったらそんなことも無く熟睡。ぱっちりめざめた。隣にいる男はすやすやだ。うん、顔がいい。なんと呼ぼうかな、と考えてから、一応年上だし、敬称をつけるかと寝起きの頭で決める。
「サヴィエさん」
「んー……あ、アンジュがいる……うれし……」
ぎゅう、と抱きしめてくるがそうではない。めっちゃいい匂いするな、とか思うけどそうではなくて。
「はなして、起きたいです」
離して、という単語にびくりとした気がしたが、サヴィエは目が覚めたようで腕を弛めて抱き起こす。
「おはよう、俺のお姫様」
「……おはようございます」
朝からこの糖度である。もはや胸焼けする前になれそうなのが怖い。
「眠れたかな」
「稀に見る熟睡、朝にすっきりな目覚めです」
「それは良かった。お腹は空いてる?」
首を横に振る。朝は食べないのだ。
「暖かいお茶は」
「ほしい」
「うん、分かった」
ぱちんぱちん、指を鳴らしてテーブルをベッドサイドに寄せて、ティーポット、カップとソーサー熱々のお湯を魔法で出した。
「どのお茶が好き?」
「なんでものむ」
「そっか。じゃあ俺のおすすめを入れよう。ホージ茶という日本のお茶だ。昔は、桜乃國と呼ばれて……」
「こっちにも日本ってあるの? 魔法が使えない国だよね」
「そっちではそうなのかい? こちらはみんな魔法が使える」
「へぇ。すごいね」
じゃあ魔法が使える人への差別もなくて、平和なのかな、なんて思ったりする。なんで虚国の人は、魔物は向こうであんなに迫害されていたのだろうと思うくらいに、サヴィエは良い人だ。
「どうぞ。熱いからゆっくり」
ふよふよとお茶が私の目の前まで運ばれる。ベッドの上で、ヘッドボードにもたれてサヴィエに見つめられている。
「……美味しい。こうばしくて、ほっとする」
「よかった、気に入ってくれて。……今日は屋敷の中を案内しよう。あとはアンジュが欲しいものを買いに行こうか」
こくりと頷くと優しく頭を撫でてくる。にっこりと笑うサヴィエ。この人はずっとにこにこしているなぁと毒気が抜かれる気持ちだ。この人の笑顔が好きかもしれない。

「ひっろ……」
「そうだろう。アンジュはきっと沢山本がおける家が良いだろうと思って」
家中を案内されて、今は書斎に来ている。軽く私設図書館の様相。
「サヴィエさんの本はどの棚?」
「え?俺のはそこの」
指さした棚に小走りに向かって1冊目に付いたものを手に取る。
「これ今日読む」
「いいけど、何にしたの?」
「……『プリムラの雪』って書いてる。小説?」
「それか……それは詩集だね。俺がいないところで読んで欲しいかな」
「じゃあ読めないじゃん。やだ」
「んー、わがままっぽいのも可愛いんだから、どうしてくれよう……」
私が本をとってめくっていくのを見ながらなんか悶えてる。もう今日起きてからずっとそんな調子なので放っておくことにした。
「アンジュ、これはどうかな」
「うぇ?」
大判の本を出してきたと思えば広げると魔法でキラキラと宝石でできた蝶が飛び立って私の周りをくるくると舞う。
「かわいい! なにこれ! ちょうちょ」
「ふふ。それは俺の魔法。本は星の欠片の蒐集した図版だよ」
「みたい……それも持ってて。あとで読む」
「急がなくても全部アンジュのだよ。誰も取らないから」
「……ここにあるの全部私の? ほんとに?」
「ああそうだよ。私のものは君のものだからね」
わあ、すごい、と言うと私の指先にブルーサファイアの蝶々がとまる。
「その子、アンジュが気に入ったみたいだね」
パタパタと私の周りを消えずにずっと飛んでいる。サヴィエがパチンと指を鳴らすと私の薬指にしゅるりとおさまり指輪になった。
「わあ」
「アンジュに似合うからだな」
青い蝶の装飾の指輪。綺麗な魔法だった。

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