ふわふわの定義

私がちょっと疲れたから昼寝をしたいと言ったら、寝室で本を読むためにと彼はいくつか難しそうな本を持ってきた。
寝室のベッドの上にちょこんと座る黒いリボンの子が目にはいった。
「ジェイコブ! ジェイも来たのね」
私の大事なテディベアだ。ぴょんと飛び乗ってジェイを抱きしめる。いつも一緒にいてくれたふわふわのテディベアだ。学園にいた時買った子。ちゃんとちょっとリボンが歪んじゃうジェイだ。
「アンジュの大事なものだろう? 連れてきた」
「嬉しい」
「ふふ、可愛いね。喜んでくれてよかった。無理やり連れてきたから、アンジュの大事なものも連れてこなくては行けないと思って、さっきちょちょいと鏡で」
「鏡?」
「あー……その話はまた今度。昼寝しよう」
苦笑いして私をベッドに寝かせにくる。ふわりとブランケットを広げて私にかける。
「すんごく子供扱いをされている」
「可愛がっていただけなんだけどな、嫌だったか……」
「そういう訳じゃないんだけど……」
「恋人同士というのは互いの幼さのようなものを許容していく関係なのだそうだよ」
私がジェイを抱きしめて、サヴィエは私の頭を撫でて頬にキスをする。
「私は恋人になることを許可した覚えは無いのだけど」
「そうか。俺のことは嫌かな?」
「いやではない」
「ふふ。ではゆっくり恋人になっていこう」
ふわふわのジェイとベッドで眠くなってきた。

……

昼寝から目覚めたとき、サヴィエはいなくて、手洗いにでも行っているのかなと部屋をキョロキョロとみわたす。
こちらに来てから一人になる瞬間があまりなくて、すこし、不安になってしまう。ジェイを抱っこして、ベッドからおりる。レースのカーテンが降ろされた窓辺に近づく。外は雪で真っ白。
「みて、ニウェースみたいだよ、ジェイ」
私は独り言をいう。いつもなにか不安になった時そうやって落ち着かせてきた。ジェイに話しかけて。
「一人でお部屋の外出るのこわいね。まだ覚えてないから、迷うかもしれない」
ジェイを撫でて窓の外を見ていると、配達員さんか何かがきて、ギュスターヴみたいな服を着た男の人となにか喋ってるのが見えた。
「あの人も使用人かなぁ。……サヴィエさん、まだかな、どこいっちゃったんだろうね。やっぱりまだ一人は不安だね」
かたんと、扉のノブが回されるおとがしたから、振り向いた。
「お目覚めだ」
メガネを外して魔法で消すサヴィエ。やっぱり仕事してたのかな?
「どこ行ってたの?」
「資料を探しに行ってたんだ。俺が居なくて寂しかった?」
「……」
私はそれには答えずに窓のカーテンを閉めて、ジェイを抱っこしたままサヴィエのところに行く。
「ん? どうした?」
「……ちょっとびっくりするから、なんか書き置きしといて欲しい」
「……分かった。ごめんね」
ちゅ、と私の額に口付けて謝る。
「何か欲しいものはある? したいこととか……」
「え、急」
「ここで暮らすのに必要なものでもいいし、アンジュが快適に生活できるようにしたいからね」
サヴィエは私を抱き上げて、また勝手に姫抱きにして、それから大きな椅子に座ると私を自身の膝の上に下ろす。ものすごく距離が近い。
「近い……」
「嫌だった? 抵抗しないからいいのかなって」
「別にいいんだけど、慣れない」
「じゃあ慣れたらいいな」
私の顔を見つめて、とろりと微笑む。どきどきしてしまうので、心臓には良くないかも。私はジェイを顔の近くに寄せて、せめてもの抵抗をする。
「そのくま、かわいいね。ジェイコブだっけ?」
「うん。……学園にいるときに、お迎えした」
「アンジュの大事な子なんだね」
「アンジュの大事な子なんだね」
優しいほほ笑みで、ジェイの頭を撫でる。ぬいぐるみも愛でてくれるなら、私の大事な子だと言ってくれるなら、ほんとにこの吸血鬼は私のことをきちんと好きなのかも。私を通して、前世の人間を見ているのではなくて、私自身を。
「ふわふわで可愛くて、沢山話しを聞いてくれるのよ」
「そうか。いいこだね、ジェイコブ」
私の言うことを馬鹿げてるなんて、子供っぽいなんて言わないでぜんぶちゃんと受け止めてくれる。
「……サヴィエさん」
私を抱えながら、ジェイコブの手をふにふにと触っていた彼は私の目をじっと見る。赤い目は私を写し出して、細められる。
「うん、何かな」
「本屋さんとか、お菓子屋さん見てみたい」
「ん、わかった。じゃあ、明日近くの街を見に行こう」
「昨日着いたところ?」
「いや、違うところ。昨日のところは結構遠いからね」
「……地理も何にもわかんないから教えて」
「ふふ、任せなさい」

【実は聞いていたサヴィエ】
「……可愛い、ぬいぐるみと話してる。…え、俺がいないとさみしいの? 可愛いなほんと。不安にさせないようにしなきゃ、前みたいに悲しませたくないしな……ああ、アンジュが可愛い」

【通りかかった従者ギュスターヴ】
「旦那様、キモイですよー」

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